塩狩峠を読む

《最終回》旭川の奇跡が生んだ傑作

連載第1回でも触れましたが、作者の三浦綾子氏は、「今回の『塩狩峠』は『犠牲』をテーマとして、書いてみたいと思ったわけである」と「『塩狩峠』の連載の前に」の中に残しています。

《10》肺病のふじ子と結婚誓う信夫

モデルは三浦の夫・光世 前章では、職場で他人の給料を盗んだ同僚・三堀のために、主人公・信夫は上司である和倉の元に一緒に謝罪に行った場面で終わりました。困難にぶつかり求道していた信夫はキリスト教の伝道者・伊木に出会い感銘を受け、教えを学ぶため、三堀と向き合う時も聖句の実践を心掛けていました。

《8》札幌の街で聖句に向き合う

前章「連絡船」で23歳の主人公・信夫は北海道で暮らすため、青函連絡船に乗り、第13章「札幌の街」で親友の吉川と再会します。 信夫は吉川と3年ぶりに再会しても、自分が札幌に来た目的がいまだにはっきりとは分からずにいました。仕事を辞め、家族を残し、吉川の住む札幌に来たのは、吉川の妹・ふじ子が理由だとは断言できず、「二十三歳の信夫の感傷」と受け止めます。

《7》万物の存在の意味を考える

万物の存在の意味を考える 前章「いちじく」の小説がきっかけとなり、主人公・信夫はキリスト教に対する偏見が覆った場面から続く、第11章「トランプ」は、次の一文から始まります。 「信夫はそれ以来、何となく神ということについて考えるようになった。」 信夫は職場の中庭でバラを見つけ、きれいと思い、「(こんな美しい花が、この汚い土の中から咲くなんて……)それはいかにもふしぎだった」。

《6》法にない”罪”を見詰める

日本人の罪意識に言及 第9章「捕縄」は、信夫の罪に対する考察が描かれています。父の死後、主人公・信夫は家計を支えるため、裁判所の事務員になります。ある日、縄にかけられた虎雄を職場で見掛け、衝撃を受けます。虎雄は屋根から落ちた事件でも登場した、幼少期に信夫とよく遊んだ人物です。 信夫は母・菊に「おかあさま、人間て小さい時にいい子でも、大きくなって、そんなふうに変わるものでしょうか」と尋ねると、菊は、「信夫さん。人間てね、その時その時で、自分でも思いがけないような人間に、変わってしまうことがあるものですよ」と答えました。

《5》人の心の不自由さを知る

第7章「あこがれ」では、主人公・信夫が長い間、母・菊に持っていた恨みが解けるという重要な場面があります。ある朝、熱を出した14歳の信夫は、丸2日、病床に臥します。その時、2日間寝ずに看病したのは菊でした。朦朧とする意識の中、菊がずっとそばにいたことを感じていた信夫は、風邪が治った時、初めて「母の愛」を認めることができました。

《4》人に通じるものは誠の心

供も教えることのできるお坊さんになりたいと答え、重ねて言いました。 「永野は死にたいと思ったことはないか」 吉川の父は酒に酔うとよく母に暴力を振るうといい、かわいそうな母のために、父に暴力を止めてほしいと手紙を書いて死のうと思うことがあると打ち明けました。しかし、足の悪い妹のふじ子のため、死ぬことができないと話します。 「死」がまだよく分からない信夫は、彼を偉いと思うと同時に、母をそこまで思うことができることをうらやましく感じるのでした。

人気の記事