安全保障の懸念が焦点
彩 バイデン前米大統領が、日本製鉄によるUSスチールの買収を中止するように命じて問題になっているね。そもそもUSスチールって、どんな会社なの?
父 1901年に米国で設立された大手鉄鋼製造会社だよ。ペンシルベニア州に本社があり、かつては鉄鋼業界の巨人と言われ、世界の鉄鋼生産量の約3分の1を製造した世界最大の鉄鋼メーカーだった。現在は中国勢などの台頭により、世界生産は24位、米国内でも3位(2023年、世界鉄鋼協会発表)に落ち込んでいるが、過去の強い米国を象徴した企業として今でも認知度が高い有名企業だ。
彩 有名だから米大統領は買収計画を中止するように言ったの?
父 そういう一面もあるね。買収の話が出ていたとき、ちょうど24年米大統領選が予備選レースに入っていた。ラストベルト(さび付いた工業地帯)の一角で接戦州だったペンシルベニアの支持を狙った選挙戦略だったという見方もある。でも一番の理由は、買収を求めているのが日本製鉄という米国外の企業だからなんだ。「鉄は国家なり」という言葉があるように、鉄鋼は軍事力や生産能力に直結する。バイデン氏は反対の理由を「米国最大の鉄鋼生産者の一つを外国の支配下に置くのは、安全保障と重要なサプライチェーン(供給網)にリスクをもたらす」と説明しているね。日鉄側も頑張って、「本買収が米国の国家安全保障を脅かすものではなく、むしろ強化するものだ」などと主張したが、認めてもらえなかった。
彩 それじゃあ買収は難しいの?
父 難しくなったね。買収は2023年12月に両者間で合意されていた。それにもかかわらず、同盟国企業による買収を「安保上の懸念」を理由に差し止めること自体が極めて異例なんだ。だから日鉄側が「違法な政治介入」だと不快感を示すのも当然だけど、すでに問題は「ビジネスの問題」ではなく「政治の問題」になってしまっている。日鉄は、米政府を相手に訴訟を起こし、引き続き買収を目指しているが、先は見通せないね。