18世紀ヴェネツィアが舞台の風刺劇
加藤健一事務所の最新作は、「二人の主人を一度に持つと」(作=カルロ・ゴルドーニ、演出=鵜山仁)。
同事務所お得意の、ノンストップ大混乱コメディー。とは言っても、今回はちょっと勝手が違う。どちらかというと少数精鋭が多い同事務所にしては登場人物が多く賑やか。が、いつものリアルで豪奢な舞台セットや小道具はなく手作りっぽい、へんてこなものばかり。衣装も全員が白っぽく、おまけに頭にも何やら白い物が乗っかっている。
なるほど、物語の舞台は18世紀半ばのヴェネツィア。頭の白い物はカツラで、男性も襟や袖に大きなフリルがまとわり付き、女性は膨らんだロングドレス。いわゆる我々がイメージする、数百年前のヨーロッパ貴族の姿である。喜劇っぽく、あえて全体的にチープな感じに統一している模様。
主人公は、身分のある主人に仕える〝召使い〟で、それが今回加藤健一が演じるトゥルファルディーノという風変わりな男。何が風変わりかというと、今でこそ複数の勤め先を持つことは半ば当たり前の世の中だが、当時で、しかも召使いとなると、2人の主人に仕えるというのはもっての外で、かなりの不義理だ。それを口先三寸や行き当たりばったりの嘘八百で無理矢理推し進めようとし、しかもそれをやってのける自分がいかに偉大かを誇示しようとする不届き者である。
登場するのは貴族らしき者や金持ち、使用人、労働者と、身分の違いは多々あれどキリスト教圏の特徴なのか、それぞれの人格や職業が尊重されている。おのおのが好き勝手なことを結構発言するため、必然的に加藤の出番はそれほど多くはないが、それでも存在感が大きいのはさすがである。
喜劇なので基本的にオーバーアクション。一つの台詞でころころとひっくり返るそれぞれの立場。出演者全員が楽しんで役を演じているのが伝わってくる作品。金、愛、嫉妬や男女の入れ替わりなどが絡み、ただでさえ複雑な状況にトゥルファルディーノの嘘が重なり、下手をすると観客は置いてけぼりを喰らいそうになる。

撮影:石川純
だが、原題を直訳すると〝神様と富の両方に仕えることはできません〟となるといい、単なるドタバタではない、ということである。
出演はその他、清水昭彦(文学座)、奥村洋司(ワンツーワークス)、坂本岳大、小川蓮(扉座)、加藤忍ら、主要な登場人物だけでも総勢10人。
5月9日から19日までの下北沢・本多劇場での東京公演の後、同月25日、兵庫県立芸術センター阪急中ホールで上演される。(星野睦子)