舞台『ベニスの商人』

まるで飛び出す宝石箱!!

劇団鳥獣戯画(主宰・知念正文。以下「GIGA」)の第104回公演、キャバレーボードヴィルショー「ベニスの商人」(原作=W・シェイクスピア、脚本・演出=知念正文)。5月31日から今月9日、新宿シアターブラッツで上演された。

いやはや何とも。永年幾多の舞台を拝見したが、これほど近くで役者の体温を感じた芝居はなかった。その距離、約30㌢!

〝ボードビル〟とは、フランス語の「vaudeville」で、歌や舞踊、曲芸などを取り入れた喜劇のこと。

劇団鳥獣戯画といえば、芸達者でパワフルな役者がわんさか登場する。今回の会場は決して広いとは言えず、間口も狭い。ここでどうやってボードビルショーを?

そこは百戦錬磨のGIGA。ステージ中央から客席に向かって花道を作り、花道の先端には、いわゆるセカンドステージが。これでステージ空間は大きく拡がった。フラットなので、必然的に役者は観客のすぐ横を通り、極近に。

「ベニスの商人」は中世のイタリアを舞台にした、高利貸しのシャイロック(ユダヤ教徒)と貿易商のアントーニオ(キリスト教徒)の商取引を軸にさまざまな人間模様が絡む喜劇だが、根底に反ユダヤ主義が流れる。

この物語をどうしてGIGAはボードヴィルショーにし、さらに〝キャバレー〟まで付けたのか。

裁判のシーン。手前がシャイロック(石丸有里子)、奥が裁判長(ユニコ)撮影:山口笑加
裁判のシーン。手前がシャイロック(石丸有里子)、奥が裁判長(ユニコ)撮影:山口笑加

それは劇中で、双方がいがみ合う起因となったアブラハムの下りから現在の紛争までを時系列で説明するところからも分かるが、主宰の知念の、平和に対する熱い思いが込められているから。劇中演者たちは、人は♪酒を飲んでショーを見て愛し合いたいだけなんだ! と繰り返し歌い踊る。

作品に政治や思想を入れるな、という意見もあるが、作品とはいずれにしろ見る者の心に一石を投じるもの。主張や祈りなどを含まずしてなんとする。この世に本当に宗教間の争いや戦争は必要なのか!?

曲芸やポールダンス、コントーションなど、パフォーマンスに関しては言うまでもなく秀逸。きらきらした衣装で限られた空間を余すところなく使い、空中技まで披露するGIGAのショーは、もはや万華鏡を超え、飛び出す宝石箱かおもちゃ箱。

時々どこを見たらよいか分からなくなるが、どこを見ても面白い。創立50周年を間近に控えたGIGAは、ますます熱い。(星野睦子)

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