「美作(みまさか)の小説と映画を全国に!」という構想から、小説『バッテリー』などで知られる作家あさのあつこの書き下ろし小説『透き通った風が吹いて』を原案に製作された映画『風の奏の君へ』。舞台となった岡山県美作市育ちの大谷健太郎が監督・脚本を務め、キャストにはピアニストでもある松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)らが名を連ねている。
お茶処でもある岡山県・美作の地で、浪人生の真中渓哉(杉野遥亮)は無気力に日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也(山村隆太)は、地元産の茶葉で染めた衣服やカバンといった商品開発を提案するなど、町の活性化にも尽力している。

ある日、ピアニストの里香(松下奈緒)がコンサートツアーで美作に来訪する。しかし演奏中に倒れてしまった里香は、療養を兼ねてしばらく滞在することに。そんな里香に対し、淳也はなぜか冷たい態度を取る。実は里香は、淳也が大学時代に交際していた元恋人だった。
青空の下に広がる緑の茶畑といった美しい自然に囲まれながら、里香は曲作りに励む。彼女にほのかな恋心を募らせる渓哉は、里香に振り向いてもらおうと、兄の企画した茶の産地と銘柄を当てる利き茶のイベントに参加するのだが――。
ヒロインの青江里香を演じた松下奈緒は、自身のキャリアを投じ、演奏シーンでは吹き替えなしでピアノの腕を披露している。劇中曲の作曲も手がけた松下は、都会では味わえない自然の空気に、どこか懐かしさを感じたという。撮影前の段階でも岡山に赴き、「現地に行ったことから生まれてきたものが大きかった」と述懐。「その場所にそよいでふわっとなくなる風の感覚というか、一言で言うと喜怒哀楽を表現するつもりで作った」と語った。

孤独を抱える一人の女性と、その思いを何とか受け止めようとする周囲の人々の温もりが、やさしいピアノ音楽と共に描かれた作品。配給はイオンエンターテイメント。
新宿ピカデリーほかにて全国公開中。(石井孝秀)