世界的ベストセラー小説を映像化
原作はローベルト・ゼーターラーの小説で、世界40ヵ国以上で翻訳され、160万部以上発行。2016年に英国のブッカー賞最終候補にもなった作品を映像化した映画『ある一生』。
1900年頃のオーストリア・アルプス。孤児の少年アンドレアス・エッガー(イヴァン・グスタフィク)は、渓谷に住む遠い親戚クランツシュトッカー(アンドレアス・ルスト)の農場にやってきた。しかし、農場主にとって孤児は安価な働き手に過ぎず、虐げられたエッガーにとっての心の支えは老婆のアーンル(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)だけだった。彼女が亡くなると、成長したエッガー(シュテファン・ゴルスキー)を引き留めるものは何もなく、農場を出て日雇い労働者として生計を立てる。その後、渓谷に電気と観光客をもたらすロープウエーの建設作業員になると最愛の人マリー(ユリア・フランツ・リヒター)と出会い、山奥の木造小屋で充実した結婚生活を送り始める。しかし幸せな時間は長く続かなかった。
第2次世界大戦が勃発すると、山に強いエッガーはロシアのコーカサスへと送られる。ソ連軍の捕虜となり、収容所生活を数年過ごし、ようやく谷に戻ると、近代化の波が到来していた。車やバイクが走り抜け、スーパーマーケットもオープンしているのだった。それでも彼は以前と同じようにひたすら働き続ける…。
美しい情景と共に視覚的にも原作を忠実に描くため、山の四季と80年間という時代の流れをすべて海抜約2500㍍の東チロル山脈、さらに南チロルとバイエルンで撮影した。機材はスノーモービルなどを使って谷から山まで運んだという。そのかいあってか、欧州を代表する山岳地帯の自然を見事にスクリーンの中に収めている。
主役のアンドレアス・エッガーは、時代ごとに3人の俳優が演じている。幼少期を新人のイヴァン・グスタフィク、青年期を新人のシュテファン・ゴルスキー、老齢期を性格俳優のアウグスト・ツィルナーがそれぞれ担当した。
監督は『アンネの日記』(2016)のハンス・シュタインビッヒラー、脚本は『マーサの幸せレシピ』(2001)のウルリッヒ・リマー。12日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。(森 啓造)