谷川連峰 天上の楽園を歩く

6月中旬から7月初めにかけて、平標山から仙ノ倉山に続く稜線は高山植物が群落する山上のお花畑になる。

谷川連峰の西端に位置する平標山(1984㍍)はアクセスが良いこともあって、梅雨の晴れ間にはハクサンイチゲの群落を見に沢山の登山者が訪れる。

ただ、群馬県と新潟県の県境に位置するため、花の時期は天候が安定しない。去年は天候と花の時期が合わず、平標山を断念した。今年は梅雨入りが14日も遅れたお陰で、花の見頃に合わせて平標山・仙ノ倉山を訪れることができた。

6月20日早朝4時半に登山口駐車場に着くとすでに山容に陽が差し始めていた。5時過ぎ、仲間5人と登山道の階段を上り始めた。

険しい樹林帯の道にはタニウツギ、シャクナゲ、アカモノ、ゴゼンタチバナ、サラサドウダン、ツマトリソウ、チゴユリなど、予想以上に多種の山野草と出合えた。

豪雪地帯の谷川連峰は森林限界が1600㍍と低い。樹林帯を抜けると、大鉄塔辺りからいきなり視界が開ける。

後ろを振り返ると台形の苗場山、下方に苗場スキー場が見えた。大鉄塔を通過し、松手山(1614㍍)からは、ハイマツやチシマザサが広がる稜線を進む。平標山頂直下で初めてハクサンイチゲと出合った。青々とした笹原に白い花弁がよく映える。

登山口から3時間20分、平標山に着いた。その名の通り、山頂は平らで360度の眺望が広がる。ここから仙ノ倉山まで、ハクサンイチゲ、ハクサンコザクラ、ミヤマキンバイ、チングルマなど、高山植物のお花畑ロードが続く。

この時期、これほど沢山の高山植物の群落を見られる場所はあまりない。まさに天上の花の楽園と言っていい。

山上は風が通り抜け、雲一つない空は日差しが強い。ここから長い階段を150㍍ほど下り、同じ標高差を上り返す。一番キツイ上りだが、花を愛でながらゆっくり行くことにした。

どこまでもお花畑が続き、花の群落を見つけるたびに足が止まる。半年以上も深い雪に埋もれ、雪解けとともに一斉に花を咲かせる。雨や強風の中でも根を張り、けなげに咲く高山植物の生命力に圧倒される。

初夏を告げるハクサンイチゲ
初夏を告げるハクサンイチゲ

近年は温暖化の影響で雪解けが早く、花の開花が年々早まっている。去年平標山に登った山友は、1年前より枯れた笹原が多いと言っていた。これも温暖化の影響だろうか。

登山口を出発し、すでに5時間。累計標高差1350㍍を上り切り、全員が仙ノ倉山(2026㍍)に立つことができた。

山頂からは谷川岳、その後ろに尾瀬の燧ケ岳と至仏山の山々。平標山に続く一本の道を黙々と歩く登山者の姿は修行僧のようである。大変な道のりだからこそ、踏破できた喜びは大きい。

残雪が広がる5月下旬頃、ピンク色のシャクナゲ、ミネザクラが残雪の山容を彩る。この時期にもう一度訪れてみたい。(ペンとカメラ・大石 翠)

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