映画『愛に乱暴』

アラフォー主婦の寂しさ怪演

シリアスな演技からコミカルな役柄まで、名脇役として名高い江口のりこが主演を務める映画『愛に乱暴』が、ついに完成した。

専業主婦の初瀬桃子(江口のりこ)は41歳、子供はいない。結婚して8年になる夫の真守(小泉孝太郎)と2人で離れに暮らし、母屋に住む姑・照子(風吹ジュン)のごみをまとめて捨てに行くのが毎朝の日課。それから汚れたごみ捨て場を掃除している。

近ごろ心配なのが、近所のごみ捨て場で不審火が相次いでいること。それに、餌付けしてかわいがっていた野良猫の「ピーちゃん」の姿が見当たらない。

さらに気になっているのは、最近妊娠したという不倫女のSNSアカウント。そんな時、香港出張から帰ってきた夫のスーツケースを開けると、シャツがきれいに畳まれて入っていた。夫はそんなことはしないはずなのに。

しばらくして離婚を切り出された桃子は激怒するが、真守は帰って来ない。時を同じく、講師を務める手作り石鹸教室の打ち切りが決まり、実家では弟の子供たちの物が増えたからと部屋を片付けるように言われる。桃子の居場所はもうないのだ。

姑(風吹ジュン、左)のごみを捨てに行くのが桃子の日課©2013 吉田修一/新潮社©2024 「愛に乱暴」製作委員会
姑(風吹ジュン、左)のごみを捨てに行くのが桃子の日課©2013 吉田修一/新潮社©2024 「愛に乱暴」製作委員会

誰からも感謝されず、必要ともされなくなった行き場のない思いと絶望から、桃子は思いもよらない奇行に走る。そしてなぜか、「ピーちゃん」への異常な執着を募らせるのだった。

追い詰められた桃子は、どこまで突っ走るのか。誰が桃子を止めるのか。最後まで目が離せない、怒涛の105分。映像化は不可能とも言われていた吉田修一作の同名小説を、森ガキ侑大監督の肝煎りで映画化した。

登場人物に共感したり、感情移入したりするようには、本作は作られていない。予測不能な人々の言動を俯瞰して見せるエンタメとなっている。

主人公・桃子役の江口は表情から息遣いまでを駆使し、その狂気とも言える行動の数々はまさに“怪演”と呼ぶのに相応しい。

無口な夫・真守(小泉孝太郎)は表情をほとんど見せない©2013 吉田修一/新潮社©2024 「愛に乱暴」製作委員会
無口な夫・真守(小泉孝太郎)は表情をほとんど見せない©2013 吉田修一/新潮社©2024 「愛に乱暴」製作委員会

桃子の夫・真守を演じた小泉は、持ち前の爽やかさを見事に封印。前髪を眉まで伸ばして冴えない中年男になり切り、新たなキャラクターを作り上げた。

主人公を追い詰めていく人々に、子煩悩な真守の母役の風吹ジュン、真守の愛人役の馬場ふみか、桃子の元上司役の斉藤陽一郎ら実力派俳優陣が脇を固める。

8月30日全国ロードショー。(皆川ミカ)

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