切なくも、心に響く家族の物語
耳の聞こえない両親の下に生まれた子供の苦悩と家族のハートフルな生活を描いた『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が公開中だ。主演の吉沢亮が聴覚障害者の親を支える“コーダ”を熱演した。
監督は「オカンの嫁入り」「きみはいい子」の呉美保で、本作が９年ぶりの長編作品となる。
宮城県の小さな港町に暮らす五十嵐家。一家の長男・大（吉沢亮）に、塗装職人の父・陽介（今井彰人）と優しい母・明子（忍足亜希子）、そしてかつて〝蛇の目のヤス〟と異名を取った破天荒な祖父・康雄（でんでん）と祖母・広子（烏丸せつこ）がいる。他の家庭と少しだけ違うのは、父と母の耳が聞こえないことだった。
でも幼い大にとっては、手話で大好きな母の〝通訳〟をすることも、背後から来る車から母を守ることも、〝ふつう〟の楽しい日常だ。
しかし小学生になると、母が友達の母親とは違うことを意識するようになっていく。母が好奇の目で見られるかもしれないと思うと辛い大は、ある日、授業参観のお知らせを捨ててしまう。「お母さんのこと、恥ずかしい？」と尋ねられて答えられなかった。
思春期を迎えた大は、反抗期も重なり、不機嫌な態度で接したり、怒りをぶつけたりして母を傷つけてしまっていた。母を世の中から守りたいのに、その母を自分が傷つけている――。そんな心を持て余したまま、大は20歳になった。
「耳の聞こえない親を持った可哀そうな子」という偏見を感じながら生きることに辟易し、周りを見返すために役者になろうと上京するも、うまくいかなかった。パチンコで時間をつぶす鬱屈した日々が続くが、両親の結婚したいきさつなどを聞くうち、父に背中を押され、大は再び東京へ旅立つことを決意する。
「コーダ」とは「Children of Deaf Adults」（ＣＯＤＡ）の頭文字をとった言葉で、聞こえない、または聞こえにくい親を持つ、聞こえる子供のことを指す。日本では２０２２年に公開された映画『Coda あいのうた』でも広く知られるようになった。
本作は、五十嵐大氏による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を原作に映画化した。
コーダである大を演じた吉沢は約２カ月かけて手話を猛特訓。両親を演じたろう者俳優の忍足、今井と稽古を重ね、手話と同時に顔の表情を意識して演じたと語る。
手話演出、ろう演出に早瀬憲太郎、石村真由美、加えてコーダ監修として稲川悟史が参加している。
９月20日から全国順次公開。（森 啓造）
