千葉のマッターホルンで岩登り~伊予ケ岳~

千葉県には山らしい山がない。よく知られているのが鋸山(329・5㍍)だが、そこから東に車を30分ほど走らせると伊予ケ岳(336・3㍍)という山がある。

低山には珍しく険しい岩峰を有し、鎖やロープを使うスリリングな岩場登りができる。千葉のマッターホルンと称され、この名に惹かれ県外から訪れる登山者もいる。
まだ夏の暑さが残る10月4日、夫と二人で南房総の伊予ケ岳に向かった。

登山口の平群天神社に入ると、幹回り4㍍を超す立派なクスノキが2本。天神社の拝殿の後ろには伊予ケ岳の鋭い岩峰が間近に見えた。

その岩峰が愛媛県の日本百名山・石鎚山と似ていることから「伊予」という名が付けられた。石鎚山と同じくこの山にも天狗伝説があり、房総の石鎚山とも呼ばれている。

神社で安全祈願をし、シイやクヌギの雑木林の道を登り始めた。10月なのにヒグラシが鳴き、林間を涼やかな風が通り抜ける。30分程で南房総を一望できる東屋に着いた。

10時40分ごろ、千葉のマッターホルン登頂
10時40分ごろ、千葉のマッターホルン登頂

頂上へは岩場を登るコースと岩場を避けて右側から回って登るコースがある。登山者の大半が登りは険しい岩場、下りは北峰を経由する時計回りの周回コースを選ぶ。

登り始めると、「恐怖を感じる方やお子様は絶対に登らないように」と、注意喚起の看板。見上げると目新しい鎖が上まで繋がっていた。

岩場が苦手な私は同伴者の夫に先を譲り、その後に続いた。最初は緩やかだが、次第に斜度が急になる。鎖を頼りに足場を探しながら、ゆっくり進む。

思った以上に急だ。途中、スマホを落としそうになりヒヤッとした。

ようやく道が緩やかになり、伊予ケ岳の頂上標識が見えた時はほっとした。

ずいぶん長い時間、岩と格闘していた感覚だが、東屋から20分しか経っていない。

頂上の南峰は鋸山の地獄覗きのようになっていて、せり出した崖の上は足がすくむ。

最大斜度80度の鎖場を登る
最大斜度80度の鎖場を登る

伊予ケ岳の天狗伝説によると、ここから悪い天狗が大団扇を仰いで舞い降り、神通力を失って真っ逆さまに落ちたと言われている。

先端に立つと、西側に双耳峰の富山、北側に伊予ケ岳北峰、眼下に南房総の里山がジオラマのように見える。1時間ほどでこれだけ高度感のある眺望とスリルを味わえる低山は珍しい。

しばらく大展望を堪能し、北峰経由で下山を始めた。木と木の間をロープでつないだ下山道は非情にも前日の雨でぬかるんでいた。今度はロープを頼りに後ろ向きの姿勢で急坂を滑り下りていく。暑さと悪路で東屋に着いた頃はかなり体力を消耗した。

平群天神社から見える伊予ケ岳岩峰
平群天神社から見える伊予ケ岳岩峰

千葉の低山と侮るなかれ。後で伊予ケ岳の登り最大斜度は80度もあったことを知った。

その名に「岳」を付けただけのことはある。(ペンとカメラ・大石 翠)

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