第37回東京国際映画祭『敵』が3冠獲得

日本映画が19年ぶりにグランプリ

東京・日比谷、有楽町を中心に行われた第37回東京国際映画祭(10月28日から11月6日)のコンペティション部門を含む各賞の授賞式が、最終日となる6日に行われた。

コンペ部門の最高賞(東京グランプリ)は日本映画『敵』に決まり、吉田大八監督が最優秀監督賞、主演の長塚京三(79)も最優秀男優賞を受賞するなど3冠を達成した。日本作品がグランプリを獲得するのは2005年の「雪に願うこと」(根岸吉太郎監督)以来19年ぶり。

筒井康隆の同名小説が原作で、「敵がやって来る」という不穏なメッセージを受け取った老境の元大学教授が主人公。壇上に立った長塚は「結構味方もいるんじゃないかと気を強くした。もうちょっとこの世界でやってみようかなという気持ちになった」と話した。

吉田監督も「味方も意外と多いことに気付けてよかった」と話し、周囲への謝意を表した。

全編モノクロという形をとっているが、往年のモノクロ作品にありがちなぼかしの入ったものではなく、クリアで鮮明な画像が印象的だった。

現役を退き老境に入った独り暮らしの教授の姿は、ある種、いま少子高齢化が進む日本の姿が二重写しのように見えた。

老教授には子供が無く、妻と死別してから時間が経っている。そんな中で、老教授の頭の中ではいろんな妄想が渦巻いている。

日常の時間がゆっくりと進んでいく。親類が一堂に家に集まり、亡くなった老教授が残した遺言書が読み上げられる。教授の家と書物を託された親類の若者が庭や物置などをゆっくり見回り、ふと二階を見ると、外の様子を見詰める老教授がいて驚くのだ。そのままエンドロールが流れる。

往年の日本映画を彷彿とさせながら、登場人物たちの人間模様が描かれ、老教授とのやり取りは微笑ましくもあった。ほんのちょっぴりホラーのような要素を入り込ませた吉田大八監督のユーモアを感じさせた。

その他、観客賞に『小さな私』(中国、ヤン・リーナ監督)。最優秀芸術貢献賞には『わが友アンドレ』(中国、ドン・ズージェン監督)、最優秀女優賞には『トラフィック』(ルーマニア、ベルギー、オランダ共作、テオドラ・アナ・ミハイ監督)で主演したアナマリア・ヴァルトロメイ。審査委員特別賞を『アディオス・アミーゴ』(コロンビア、イバン・D・ガオナ監督)が受賞した。(佐野富成)

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