山歩きを始めて間もない頃、登山サークルの先輩から「紅葉の時期にぜひ登ったらいいよ」と勧められた山が瑞牆山である。11月初旬、念願の瑞牆山に登ることができた。
奥秩父連峰の主脈にある瑞牆山(2230㍍)は金峰山(2599㍍)と同じく山岳信仰の山として知られている。近年はボルダリングの聖地としても人気が高い。
山岳作家の深田久弥は瑞牆山のユニークな点を「岩峰が樹林帯と混合しているところである」(『日本百名山』)と表現している。大森林から幾つもの奇岩が天に向かってそびえ立ち、秋は黄色に染まった広葉樹林帯に花崗岩の白い岩峰がよく映える。

今年は紅葉が1週間ほど遅れ、登山日の7日は登山口に向かう本谷川沿いの紅葉が真っ盛りだった。
午前9時半過ぎ、瑞牆山荘登山口から紅葉の登山道を歩き始めた。富士山が初冠雪した日は強風予報だったが、朝から風もなく雲一つない快晴だった。
これだけ天気が良いと頂上の絶景が期待できる。落ち葉を踏みしめながら、山仲間とのおしゃべりが弾む。

急な道を30分程登ると景色が突然開け、切り立った瑞牆山が姿を現した。昼過ぎにはあの岩峰に立つと思うと、気持ちは高鳴る。
登山口から1時間。瑞牆山、金峰山の分岐点となる富士見平小屋(1812㍍)に着いた。週末はテント泊の若者で賑わうが、平日は静かだ。ここから瑞牆山往復4時間、金峰山往復7時間。脚に自信があれば、小屋泊まりして両山を縦走するのがいい。
小屋からは緩やかな道が続き、渓流を渡ると桃太郎岩が見えた。直径10㍍もの巨岩がスパッと割れている。
山中湖村の石割山は御神体とする巨岩の間を人が通り抜けられるが、この岩は通り抜けるほどの幅はな

い。
埼玉から来たという若者グループの1人は「ほぼ毎年、瑞牆山に来て、ここで記念写真を撮る」と言っていた。この山は何度来ても飽きない不思議な魅力があるらしい。
桃太郎岩からは鎖場がある岩場が続く。大きな岩をすり抜け、鎖や梯子を使って登る箇所が幾つもあった。危険というほどではないが、長い岩場はシニアには辛い。
桃太郎岩から80分、大ヤスリ岩が見え始めた。下山者から「富士山がよく見えるよ。頑張って!」と励まされる。
午後1時、頂上はほぼ無風。滑らかな大きな花崗岩の上を登山者が写真撮りしながら、空中散歩を楽しんでいた。真っ青な空に富士山がすっと立ち、その姿は神々しい。

高度感に慣れた頃、岩の先端から下を覗いてみた。大ヤスリ岩は大地から生えてきた巨大な生き物のように見えた。
こんな奇岩の岩峰がどれほどの年月を経て形成されたのか。瑞牆山が持つ大自然のエネルギーに圧倒される。(ペンとカメラ・大石 翠)