動物たちが織り成す大冒険
人が住んでいた形跡はあちこちにあるが人影はなく、登場するのは動物だけ。
そんな世界で、孤独を愛する黒猫は気ままに生きていた。犬に追いかけ回されるなどハプニングはありつつも平和に過ごしていたある日、突然、大洪水が襲う。必死に高い所に登って避難するが、水位は上がり続けてくる。
もうダメかと思ったその時、流れてきたのは一隻のボート。世界の全てをのみ込もうとするかのように水位は上がり続けるが、そのボートに偶然居合わせたカピバラ、途中から合流したキツネザル、犬、鳥と共に乗り込み、一同は冒険に繰り出す。
どこに流されているのか分からないまま、ボートは猫と乗り合わせた動物たちを乗せて流れていく。想像を超えた出来事や、危機的な状況を共に乗り越える中で、動物たちの間には次第に友情が芽生える。冒険の先にあるものとは――。
本作の一番の特徴はセリフが一切なく、映像が全てを語るところだろう。なぜ洪水が起こり、それが何を意味するのか、キャラクターたちが発見する彫像や遺跡は何なのかといった説明は全くないが、ヒントは散りばめられている。
ギンツ・ジルバロディス監督は、アニメーションで尊敬するのは宮崎駿監督だと語っている。本作も宮崎監督の映画のように、子供が楽しめると同時に一緒に見た大人が映像の中に隠されたメッセージに気付き、考察することができる作品だろう。
作中の動物たちはまるで人間のような行動を取ることもあり、その姿を通して逆境に立ち向かう人のさまざまな側面を象徴しているとも考えられそうだ。監督は「すべての動物の性格は社会対個人という考えに結び付いている」とも述べている。
本作は2024年アヌシー国際アニメーション映画祭で4冠を受賞し、2025年ゴールデングローブ賞では『インサイド・ヘッド2』『モアナと伝説の海2』などを抑えて、アニメーション映画賞を受賞した。少人数のスタッフと少額の製作費で製作されたことでも話題となっている。
3月14日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。(宮沢玲衣)