20世紀のスペインを代表する画家ジュアン・ミロ(1893~1983年)の回顧展「ミロ展」が、東京・上野の東京都美術館で現在開催中だ。7月6日まで。ミロの個展が日本で開催されるのは3年ぶり。
今回の目玉は代表作「星座」シリーズ(全23点で構成)のうち日本初公開となる3点。戦火を逃れながら描かれたこのシリーズは世界中に散らばっており、一度に複数を見られるのは貴重だ。
同展は初期作品から晩年までの5章立てで、各時代の代表作約100点が展示されている。
同じ20世紀のスペイン画壇では、巨匠パブロ・ピカソ(1881~1973年)が知られる。そのピカソがパリの画廊にいた1920年春、ミロは尊敬するピカソのために自画像を持参し、それを見せたという。
ミロの自画像を見てその才能を見抜いたピカソ。21年にミロの個展が開かれると、その自画像はピカソの手元に置かれたという。
目鼻口がキュッと中央に寄り、キュビズム的な手法に違和感はない。絵が好きだったミロだが、父親の影響から商業学校へ通い、10代の頃はバルセロナの薬局で会計係として雇われていた。しかし好きな絵を描くことを我慢していたためか、人間関係や仕事のことで精神を病み、両親に対する手紙で「自分が愛する自然の偉大な美しさを観賞することができない」「絵を思い切り描きたい」と思いのたけを綴った。
仕事を辞めた1912年、フランスで本格的な美術の教育を受けるようになる。本展では「第1章 若きミロ 芸術への決意」で、その頃の作品が展示されている。この作品群は、後期印象派のポール・セザンヌ(1839~1906年)や点描画、フォービズムといった印象派の影響が強い。

「第2章 モンロッチ―パリ 田園地帯から前衛の都へ」では、全く違った画風に。第1章の作品と比べると一目瞭然で、抽象画へとシフトし、シュルレアリスムの影響を受けつつも画家・ミロとしての独自性を見せている。
「第3章 逃避と詩情 戦争の時代を背景に」「第4章 夢のアトリエ 内省を重ねて新たな創造へ」「第5章 絵画の本質へ向かって」は、絵画というよりもグラフィックに近い作品が主流。その中に、音楽や詩を線や色彩に描き出すという独自色を強めていく。その典型作品が先述の「星座」シリーズだろう。
ミロは、日本の精神世界にも深い興味を持ち、日本の水墨画に近い作品も残している。
担当学芸員は「ミロは晩年になっても大画面の作品を描き、新たな表現に挑戦し続けた。その軌跡が分かる内容になっています」と話す。ミロの一生が、本展にうまく詰め込まれている。(佐野富成)