大胆な政策や方針
米国でトランプ大統領が1月20日、再就任した。矢継ぎ早に打ち出す大胆な政策や方針は、国内外の既存の秩序や概念を覆すほどの勢いだ。「怒涛のトランプ改革」をどう見るか、米国の識者に聞いた。
(聞き手=世界日報主幹・早川俊行)
世界に「常識」取り戻す
世界政治学院学部長
ジェームズ・ロビンズ氏

―トランプ氏は就任演説で「コモンセンス(常識)革命」を始めると宣言した。
現代の進歩主義の問題点は、現実を否定するよう求めていることだ。例えば、男性と女性は社会的要素だけで定義でき、男性でも女性と自認していれば、女子スポーツへの参加を認めるべきだというのだ。
トランプ氏はこれを禁じる大統領令に署名した。生物学的な男性が女性とスポーツで競争するのは本質的に不公平だからだ。トランスジェンダーの生き方はその人の自由だが、生物学の現実は認めよう、これが常識革命の一例だ。
また、進歩主義者たちは好きなだけお金を刷ってもインフレは起きないと言っていた。だが、バイデン前政権はそれをやってインフレを起こした。お金を刷れば刷るほど、その価値は下がる。これは常識だ。
イデオロギーに思考が支配されると、現実が吹き飛んでしまう。トランプ氏はプラグマティズム(現実主義)と常識を取り戻している。
―トランプ氏は「米国第一」を掲げ、グローバリズムの潮流を押し返している。
グローバリズムは国家主権を国際機関やオリガルヒ(新興財閥)に移譲し、人々の生活をコントロールしようとするものだ。自国の政府に対する権利や、文化・伝統を維持する権利までも損なわれることになる。
グローバリズムは国境開放・大規模移民を推し進めるが、米国が不法移民で溢れ返り、彼らが選挙権を得て政府を支配すれば、この国の理念は破壊される。気候変動に関するアジェンダも、エネルギーから食料、人々の行動に至るまで、すべてを規制しようとする政治的プログラムと言っていい。
これらのグローバリズムのアジェンダは、自由や自治に対する深刻な脅威だ。グローバリストたちは自由や人間の自主性を嫌い、すべてをコントロールしたいのだ。
―トランプ氏はレーガン元大統領と同じ「力による平和」を掲げている。
「力による平和」は強い経済から始まる。やりたいことを実行するには、経済を健全化しなければならない。次に必要なのは、健全な軍事的基盤だ。抑止力の目的は、戦争をすることではなく、強力かつ信頼できる軍事力を持つことで、戦争を抑止することにある。

レーガン氏の時代は、ソ連との冷戦競争が外交政策の中心だった。トランプ氏の場合は、直面する問題がさまざまあるが、やはり極めて重要になるのは中国への対応だ。
◆対露強硬姿勢は変わらず
―トランプ米大統領はウクライナ戦争を終わらせることができるか。
ウクライナ停戦を実現できていない理由の一つは、外交を機能させる米国のイニシアチブが欠如していたことだ。ウクライナや同盟国に多くの軍事援助を行ってきたが、話し合いはまるで進まなかった。
米国内で停戦や和平を主張する者は、親ロシア派と非難される政治状況があったからだ。民主党ではそれが顕著だった。バイデン前政権は党内からの圧力があり、外交的解決を追求してこなかった。
トランプ政権になって外交ツールを用いることができるようになり、和平交渉に向けて動き始めている。だが、和平の条件は難しい。ロシアの侵略を正当化することはできないからだ。
ただ、ウクライナ人が絶え間ない戦闘からの解放を望んでいることは事実だ。彼らはロシアと勝ち目のない消耗戦をしている。プーチン露大統領は自国民がどれだけ死んでも気にしない。北朝鮮人でもイラン人でも誰でも戦場に投入する。
従って、パレスチナ自治区ガザのように、まず停戦から始めるべきだ。戦闘を止めてから話し合う。これはウクライナの降伏を意味しないし、ロシアが国境を書き換えることを承認するものでもない。最終的な解決には時間がかかるが、少なくとも戦闘を止めることはできる。
―トランプ氏はロシア寄りと批判されることが多いが。
トランプ氏が親ロシアというのは完全な誤りだ。トランプ氏は1期目にロシアに非常に厳しい態度を取った。ロシアの侵攻を食い止めたウクライナの殺傷兵器は、トランプ政権が提供したものだ。その供給を止めたのはバイデン政権だった。トランプ氏はウクライナを守ることに積極的だったのだ。
トランプ政権はロシアに非常に強力な経済制裁を科し、エネルギー分野でも米国産液化天然ガス(LNG)の欧州輸出を促進し、ロシアの影響力を削ごうとした。またどの歴代政権よりも多くのロシア外交官を追放した。トランプ政権は2期目もロシアに強硬姿勢を取るだろう。