対中関税60%に引き上げも
米国第一政策研究所中国部長
アダム・サビット氏

―トランプ米政権2期目のスタートをどう見る。
私の専門である外交政策に関しては、素晴らしいと思う。特別な脅威である中国に対し、圧力をゆっくりと高めている。トランプ氏が選挙戦で言及した60%の関税は良いアイデアで、そこまで行くかもしれない。
ただ、トランプ氏は(中国が原料を製造し、メキシコの麻薬カルテル経由で米国内に密輸されている)合成麻薬フェンタニル対策と結び付けて、10%という低い関税から始めた。中国の習近平国家主席が歩み寄るのであれば、エスカレーションを解く機会を与えているのだ。
―フェンタニル問題の深刻度は。
大問題だ。フェンタニルは安価で強力、しかも簡単に手が入る。ピークは越えたが、年7万〜8万人が中毒死しており、米社会の病理となっている。
米下院中国特別委員会は、中国政府がフェンタニルや原料を輸出する企業に還付を行っている証拠を中国語のインターネット上で突き止めた。つまり、中国政府はこれらの企業の活動を認識しているのだ。
中国はフェンタニルを意図的に利用している。最初から大きな計画があったかどうかは分からない。だが、米国で問題が大きくなるのを見て、さらに事態を悪化させようと日和見的にやっているのは確かだ。
―中国は報復関税で対抗しているが、トランプ氏は次にどのような手を打つか。
次は最恵国待遇の撤回だろう。そうすれば、中国はイランや北朝鮮と同列になり、より懲罰的な関税を容易にかけることができるようになる。正確な段階や具体的な対象は予測できないが、時間がたつにつれて、トランプ氏の忍耐が切れ、関税を徐々に引き上げていくだろう。
―中国が近い将来、台湾に侵攻するシナリオをどう考えるか。
2027年を予想する見方が多いが、私はそれ以降だと考えている。中国の軍事力は拡大しているが、100マイルもある海峡を越えた侵攻は、過去に一度も行われたことがない。「Dデー(ノルマンディー上陸作戦)」と比較されるが、英仏海峡は30マイルだった。陸の国境を越えるだけだったウクライナ侵攻とは違う。習近平体制にとってリスクは極めて大きい。
―トランプ政権は日本に対しても防衛費増額を求めるか。
そう思う。国防次官(政策担当)に指名されたエルブリッジ・コルビー氏はそのような考え方だ。台湾の防衛費についても、少なくとも域内総生産(GDP)比5%以上であるべきだと主張している。

◆援助の焦点シフトを
―米国第一主義は、米国が自国の利益を最優先する孤立主義の印象を与える。しかし、実際にはリベラルなエリート層が推進するグローバリズムから国民を守るという理解でいいか。
正しい表現だ。最もシンプルな言い方をすれば、「アメリカ・ファースト」は「アメリカ・アローン(米国単独)」ではない。同盟関係を否定し、世界とは関わらないという意味ではない。世界からの脱退ではなく、世界保健機関(WHO)のような本質的に反米、反自由の国際機関からの脱退だ。また、イラクやアフガニスタンのように、すぐには終結しない戦争には介入しないということだ。
―トランプ政権は対外援助機関、国際開発局(USAID)を解体しようとしている。
これはトランプ政権が世界に背を向けることを意味するものではない。米国は説明責任のある予算で、より創造的な人権へのアプローチを再構築しなければならない。
対外援助の焦点を、LGBTのような“ウォーク(意識高い系)”社会問題から、食糧や水道のような基本的ニーズへとシフトする必要がある。本当に死と破壊の脅威にさらされている人々を助けることができるように、「難民」とは何かを再評価し、優先順位を決めなければならない。同時に、アフリカや南米のような戦略的地域への中国の浸透に対抗するプロジェクトにも重点を置くべきだ。