吉田悦花のわん句にゃん句

炎天の犬捕低く唄い出す(297)

昔、野犬狩があった。その不気味さをうまく捉えた句である。

惚けたる母に添ふ猫夕端居

「端居」は家の縁側や軒先など、風通しの良い場所で涼むこと。「母に添ふ猫」は、飼い猫ではなく野良猫かもしれない。夕方になると、いつのまにか傍にいる老いた猫。

赤き犬ゆきたる夏の日の怖れ

昭和10年の作。翌年、大学卒業をひかえた白泉は、俳句へのめり込み、近代的な俳句表現を模索した。街で出会った赤犬に、なにか不吉なものを感じたのか。それは、何か大きな社会不安を孕んでいたに違いない。

犬抱けば犬の眼にある夏の雲

昭和18年頃の作品。飼い主に抱かれた犬は、夏の雲を仰ぎ見ている。見開かれた二つのまなこには、白い夏雲がしっかり焼きついている。

梅雨寒し畳屋は猫裏返し

猫は畳で昼寝をするのが大好き。夏はひんやりとして涼しく、冬は保温性に優れて暖かい。暑がりで寒がりな猫にとって、畳は最高の寝床といえよう。

さみだれや呼ばれて犬のかへりみる

五月雨は、梅雨時に降り続く雨のこと。「さつきあめ」または「さみだるる」と詠まれる。農作物の生育にはなくてはならない雨も、大雨が続くと水害を起こすこともある。

猫老いていよよ賢し簟

簟は、竹を細く削って筵のように編み上げたもの。夏に畳などに敷いて、ひんやりとした感触を楽しむ。夏の季語。

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