吉田悦花のわん句にゃん句

赤き犬ゆきたる夏の日の怖れ

昭和10年の作。翌年、大学卒業をひかえた白泉は、俳句へのめり込み、近代的な俳句表現を模索した。街で出会った赤犬に、なにか不吉なものを感じたのか。それは、何か大きな社会不安を孕んでいたに違いない。

犬抱けば犬の眼にある夏の雲

昭和18年頃の作品。飼い主に抱かれた犬は、夏の雲を仰ぎ見ている。見開かれた二つのまなこには、白い夏雲がしっかり焼きついている。

梅雨寒し畳屋は猫裏返し

猫は畳で昼寝をするのが大好き。夏はひんやりとして涼しく、冬は保温性に優れて暖かい。暑がりで寒がりな猫にとって、畳は最高の寝床といえよう。

さみだれや呼ばれて犬のかへりみる

五月雨は、梅雨時に降り続く雨のこと。「さつきあめ」または「さみだるる」と詠まれる。農作物の生育にはなくてはならない雨も、大雨が続くと水害を起こすこともある。

猫老いていよよ賢し簟

簟は、竹を細く削って筵のように編み上げたもの。夏に畳などに敷いて、ひんやりとした感触を楽しむ。夏の季語。

生き疲れただ寝る犬や夏の月

人間関係や仕事の煩わしさに気力をそがれ、生き疲れたとしか言いようがない気分になったとき。誰しも一度は感じたことのある、やり場のない鬱屈した思い。

家猫にほつと野性や五月来る

家猫に野性が垣間見えるのは、虫が迷い込んできたとき、他の猫や鳥が庭にやってきたとき。動くものに飛びかかったり、猫じゃらしのようなおもちゃを捕まえようとしたりする行動は、野性の狩猟本能か。

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