12月末から1月上旬、山梨県富士五湖周辺の低山にダイヤモンド富士を見に多くの登山者が訪れる。
年初め、富士五湖の精進湖北側にある三方分山に仲間と初登りに出かけた。
三方分山(1422㍍)は河口湖の竜ケ岳、山中湖の石割山と比べるとマイナーな山だが、精進湖ごしの子抱き富士、精進湖に映る逆さ富士が美しい。
朝9時、登山口の精進湖他手合浜に着いた。眼前に冠雪富士、その真上から太陽光が静寂な精進湖を照らし始めていた。天地創造の始まりを感じさせる神秘的な世界である。

富士五湖最小の精進湖は穏やかで、ここから見る富士は風情がある。富士山が大室山を抱いている姿から子抱き富士と呼ばれている。
他手合浜から三方分山へは、二つの巨木(精進の大杉と諏訪の大杉)がある精進諏訪神社から、水路沿いの旧街道「中道往還」を登っていく。この道は駿河国と甲斐甲府をつないだ峠道で、今も馬頭観音や石塁の跡が残っている。
快晴とは言え、三が日の2日目からこの山に登る登山者は少ない。神社から阿難坂峠(女坂峠)まで1時間程だが、乾いた土の急斜面は滑りやすい。初参加の20代Tさんは登り始めてすぐ、引き返そうと思ったほどの急坂である。
登り途中、後ろから時折、「ヤッホー」の声。子供たちの声に元気づけられ、難所を登り切った。阿難坂峠から、展望の良い尾根道を小一時間ほど登れば三方分山である。

4月、桜の頃に同じコースを反対回りで、樹木で覆われた展望のない林の中を黙々と歩いた。
同じ登山道でも季節が違えば空気や匂い、そして色や音も違う。初冬の低山歩きは汗や虫刺されの心配がなく、大自然にゆっくり浸れるのがいい。
三方分山の頂上は陽光が差し込み、冬場は広々と明るい。真っ青な空に裾野を伸ばした冠雪富士、その手前に大室山と青木ヶ原樹海が広がっていた。
三方分山周回コースの絶景ポイントはこの先の精進山を通り過ぎた辺りにある。前回、通り過ごした絶景ポイントを宇都宮から来たWさんが見つけてくれた。
切り立った岩の上に立つと、眼前に精進湖と他手合浜、その後ろに子抱き富士が一枚の絵のように見える。

精進湖の反対側に目をやると、雪を冠した北岳、間ノ岳、農鳥岳が連なる南アルプスの峰々がくっきり見えた。
精進峠で小休止した後、富士山に向かって歩き始めた。根子峠に下り、そこから200㍍ほど登ると大展望が広がっていた。本栖湖と精進湖に挟まれたパノラマ台(1325㍍)は周囲に遮るものがない。大室山を抱いた富士山を眺めていると、大自然の懐に抱かれているような感覚になる。下山は夕方4時になった。

長い尾根道を自然と対話し、自己と向き合い、出会った富士は格別である。(ペンとカメラ・大石 翠)